仙台高等裁判所秋田支部 昭和47年(行コ)2号 判決 1973年8月29日
控訴人・原告 原田利良
被控訴人・被告 秋田大学学長 渡辺武男
訴訟代理人 仙波英躬 外三名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取消す。本件を秋田地方裁判所に差戻す。控訴費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上、法律上の主張および証拠の関係は、左のとおり附加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
(主張関係)
控訴人の主張は、別紙「控訴趣意原因」記載のとおりである。
(証拠関係)<省略>
理由
一、(昭和四六年九月二八日付再入学不許可処分取消の訴について)
控訴人は当審においても被控訴人の裁量権濫用について具体的な主張をしないのであるから、右不許可処分の取消を求める控訴人の請求は主張自体失当であり、その理由は原判決理由中の判断(原判決三枚目裏一〇行目から原判決四枚目表一〇行目まで)と同一であるから、これを引用する。
二、(右再入学不許可処分無効確認の予備的訴について)
原判決は、この訴については、当事者ならびに訴訟物を同じくする秋田地方裁判所昭和四六年(行ウ)第四号事件が既に係属しており、同事件と二重訴訟となるため不適法な訴として却下したのであるが、原本の存在ならびに成立に争いのない乙第四号証によれば、右昭和四六年(行ウ)第四号事件は昭和四七年三月二七日請求棄却の判決がなされ同年四月一一日確定したことが認められる。したがつて、二重訴訟の関係は解消したのであるから、現段階においては本訴を二重訴訟を理由に不適法として却下することは許されなくなつたものである。ところで、本訴において無効確認を求めている右再入学不許可処分については前記の如く控訴人の請求を棄却する旨の判決が確定している。而して、既判力の作用については、一事不再理の効果を認め、確定判決による既決事件については当然に訴権が消滅し再訴は常に不適法として取扱うべきであるとの見解もあるが、民事裁判の対象である私法上あるいは公法上の権利関係は、時の経過により、発生変更消滅の可能性があり、民事訴訟は事実審の口頭弁論終結当時の法律状態を確定するものであるから、時的要素を考慮すれば、厳密に同一事件というものはないのであつて、民事裁判の既判力に一事不再理の効果を認めることはできないものと解すべきである。したがつて、敗訴者の再訴の場合は、既判力に牴触する判断が許されないため請求棄却の本案判決をなすべきであり、一事不再理として訴を却下すべきではなく、勝訴者の再訴の場合は、原則として再訴の利益がないために訴を却下すべきであつて、一事不再理を理由として却下すべきではないのである。かくして、本件訴については、請求棄却の本案判決をなすのが本来の論理的帰結である。しかしながら、民事訴訟法第三八八条は、訴を不適法として却下した第一審判決を取消す場合においては控訴裁判所は事件を第一審裁判所に差戻すことを要する旨規定するが、その趣旨は審級の利益を保障することにあるから、本件の如く同一訴訟物につき請求棄却の確定判決があり、その既判力に牴触する判断が許されない場合においては、更に弁論を開く必要もなく、本案の請求は排斥を免れないことが極めて明白であるから、敢えて第一審に差戻す必要はないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和三七年一二月二五日判決・民集一六巻一二号二四六五頁、同昭和四二年三月三一日判決・民集二一巻二号五一六頁、同昭和四六年二月一八日判決・判例時報六二六号五一頁は、いずれも事実審理について審級の利益を保護すべき実質的理由のある事案であつて、本件とは事案を異にするものである)。したがつて、控訴裁判所としては第一審判決を取消して差戻す必要はないのであるが、さればとて、第一審判決を取消して請求棄却の自判をすることは許されない。蓋し、請求棄却の判決をすることは、控訴を提起した敗訴原告に対しその申立の範囲を超える不利益を課すことになり、不利益変更禁止の原則に反することになるからである。そこで、このような場合には、第一審判決を取消して第一審裁判所に差戻す必要はなく、控訴裁判所において直ちに控訴棄却の判決をなし得るものと解するのが相当である(大審院昭和一〇年一二月一七日判決・民集一四巻二三号二〇五三頁、同昭和一五年八月三日判決・民集一九巻一六号一二八四頁、最高裁判所昭和三七年二月一五日判決・裁判集民事五八号六九五頁参照)。
三、(昭和三五年三月一日付除籍処分無効確認の訴について)
右除籍処分無効確認の訴は不適法として却下を免れず、その理由は原判決理由中の判断(原判決四枚目裏三行目から八行目まで)と同一であるから、これを引用する。
四、(右除籍処分取消の訴について)
右除籍処分取消の訴も亦不適法として却下を免れず、その理由は原判決理由中の判断(原判決四枚目裏九行目から同五枚目表六行目まで)と同一であるから、これを引用する(但し、原判決五枚目表二行目中「当裁判所に願著な事実である。」とあるのを、「原本の存在ならびに成立に争いのない乙第一ないし第三号証によつて認められる。」と改める。)。
五、(復学による救済を求める訴について)
控訴人の本訴請求中、復学による救済を求める部分も亦不適法として却下を免れず、その理由は原判決理由中の判断(原判決五枚目表七行目から一〇行目まで)と同一であるから、これを引用する。
六、(結論)
よつて、再入学不許可処分無効確認の訴については前記第二項で説明した理由により控訴を棄却し、再入学不許可処分取消の訴はその理由がなく、その請求を棄却した原判決は相当であり、その余の訴はいずれも不適法であつて、いずれもこれを却下した原判決は相当であり、これらに対する本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松岡登 裁判官 篠田省二 裁判官 板垣範之)
控訴人原田利良の控訴趣意(原因)
一 控訴人に昭和三五年三月一日付秋田大学学則二二条二項成業の見込無しとの不法条件を付し除籍を援用し起案者学務係長高瀬四郎等が修業以前に履修単位一八科目を阻害し遡及的に学生の身分の剥奪を意図し適正な裁量行為不在で放校を強行した不法行為を不服として処分以来復学申請及び再入学出願を為したが不作為である。
二 本案の再入学出願は不法行為に関する抗告であり救済の給付請求である。
復学或は再入学許可の要件は除籍が濫用行為で在つた要素及び瑕疵ある裁量行為の動機を配慮し謝罪公告を為して更に師弟愛断絶の原状を排除し、履修単位一八科目について認定を為すべく学籍に復帰すべき処、その配慮が不在であり社会通念上その義務違反である剰え職種を濫用し要件として学科試験を課しているが再入学許可に資する判定要件に該当しないので裁量に重大な瑕疵が存在する則つて原審判は不適法判例を援用し司法審査の範疇の裁量権不在の無効に付審理不尽の違法判決がある。